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【医師監修】ギフテッドの子どもとは?発達障害との違い、特徴や判断基準を解説

【医師監修】ギフテッドの子どもとは?発達障害との違い、特徴や判断基準を解説

数学に何時間も没頭する子、独創的な絵を描く子などは周りにいませんか? 彼らは「ギフテッド」という突出した能力を持つ子どもかもしれません。日本ではあまり馴染みのない概念ですが、アメリカではギフテッドとされる子どもたちに対し、様々な形式での「ギフテッド教育」が施されているそう。日本ではまだまだ生きづらさを感じてしまうギフテッドについて、どんぐり発達クリニックの宮尾益知院長に解説していただきました。


宮尾益知院長
医療法人社団益友会 どんぐり発達クリニック理事長。ギフテッド研究所理事長。徳島大学医学部卒業後、東京大学医学部小児科、ハーバード大学神経科研究員、独立行政法人国立成育医療センターこころの診療部発達心理科医長などを経て、2014年、東京都世田谷区に『どんぐり発達クリニック』を開院。発達障害の分野での第一人者として、テレビや雑誌などのメディアにも出演。『親子で理解するLDの本』『子どものADHD早く気づいて親子がラクになる本』(河出書房新社)など、著書も多数あり。
どんぐり発達クリニックHP

ギフテッドの子どもの特徴と判断基準

__まずはギフテッドの定義から教えてください

ギフテッドというのは、障害や病気といった医学用語ではなく、いわゆる“神が与えた才能(特別なギフト)”を意味する言葉です。似たような言葉で“タレンティッド”と言われることもあります。知的に高い子どもや芸術的才能に優れている子どもはそう呼ばれています。

__どのような特徴や基準で判断するのでしょうか

先天的に平均よりも顕著に高い能力が2つ以上あること。ギフテッドの特長としては、以下の10項目が挙げられます。

① 記憶力が非常に高い
② すぐに物事を学び判断できる
③ 年齢のわりに語彙が多く、複雑な文章構造を話せる
④ 数字やパズルなどの問題を楽しむ
⑤ 感情の起伏が激しく、神経質
⑥ 社会や政治、不正に対して関心がある
⑦ 想像力があり、空想に夢中になる
⑧ 好奇心が強い
⑨ 集中力が高い
⑩ 並外れたユーモアのセンスがある

判断は主にIQ(知能指数)で測り、だいたいIQ130以上の子どもをギフテッドとしています。割合で言うと全体の2~3%なのでクラスに1人はいる計算になります。現在はIQだけでは測れないと考えられていて、ギフテッドな子は、常に多様な知的刺激を望み、興味がある分野を自分の好む学習方法で極めて深く掘り下げ探求する傾向があり、結果的に学んだ分野が高いレベルに到達することが多いとされています。

__優秀な子どもとギフテッドの違いとは?

優秀な子は「興味を持って話を聞いて、難しいことも簡単に学ぶ」のに対し、ギフテッドな子は「強い感情と意見を表すものの、答えを知っていると退屈に感じてぼんやりしてしまう」など、一見似ているようで違いがあります。学校のトップグループの成績が優秀な子だとすると、ギフテッドな子はグループ枠を超えた成績になります。

ギフテッドな子は、知識を取り入れ、要約しながら自分の考えや感じたことを自分の言葉で表現することはできますが、優秀な子との最大の違いは“人に興味がない”こと。他者に興味がないので、相手の立場と他者の感情を考えて行動することができないのです。

この5年でギフテッドが増えた理由

私は大学病院で小児神経科医をしていました。どんぐり発達クリニックを開業して7年になりますが、この5年でギフテッドや発達障害児が増えているのを実感しています。理由としては、子どもが多く他人の立場や感情を考えて行動することがそれほど求められていなかった昔と比べて、少子化の今は「一緒に〇〇する」、「喧嘩をしない」、「助け合う」といった社会性が子どもにも求められるため、それらができない子が目立ってしまうからではないかと感じています。

ちなみに、ギフテッドは生まれ持った性質なので遺伝による影響が大きく、早期教育を行ったからといってギフテッドになることはありません。

発達障害とはどう違うか

__発達障害とギフテッドの違いとは?

・授業中ぼんやりしている(内容が簡単すぎる)
・課題を最後まで終えることができない(わかる問題を繰り返し解くことに抵抗がある)
・先生の指示に対して反抗する(言動に矛盾を感じるため)
・同学年で友人関係を築きづらい(知的水準の合う相手がいないため)

もし、こんな子どもの姿が見られた場合は、発達障害ではなくギフテッドかもしれません。

__ギフテッドな子は自閉症やADHD、いわゆる発達障害的な要素があるのでしょうか

我々のクリニックで受診したギフテッドな子どもの大多数は、ADHDの診断基準に当てはまり、自閉症スペクトラムの要因、書字障害の要素を持っています。彼らのIQは非常に高いものの、社会性が低く、文字が書けず、多動、ときには暴力がでることも。知的に高いというまれさ+発達障害というまれな特性をダブルで持つ子もいて、「二重に特別」という意味で「2E(twice-exceptional)」と呼んでいます。潜在的に素晴らしい才能や知識を持つものの、発達障害と同じような要素があるため、うまく生きることができないのです。もちろん、発達障害の要素がないギフテッドの子もたくさんいます。そういう子たちは、何の問題もないので受診もされませんし、超エリートになれると思います。

海外と日本、ギフテッド教育の違い

__海外ではギフテッドの子どもたちに対する特別な教育があるそうですね

海外では昔からギフテッドの子どもたちだけを集めて教育するのが当たり前でした。アメリカ、中国、マレーシア、イスラエルなどでは国家レベルでそういう子をハンティングして集めていました。いわゆる「ギフテッド教育」がなぜ行われていたかと言うと、ひとつは知的に高い子どもは将来国の役に立つと考えられていた。もうひとつはギフテッドの子どもは一般の子と一緒に学習したり育てていくのが非常に難しかったため。ギフテッドの子どもは、性格が激しく、自分勝手で対人関係が上手くいかないことも多く、中には、先述した通り自閉症的な要素やADHD的な要素を持つ子もいるからです。

__日本ではギフテッド教育は行われていないのですか

日本では、低い方の例外であるIQ70以下、いわゆる知的障害という診断名が付く人たちへのサポート体制はありますが、IQの高い人のサポート体制はありません。私はおかしい考えだと思います。日本人の多くはみんなが均一であることを望み、違う子、特に優れた力を持つ子どもたちに対して反感を持ちがちです。そして、自分より劣っている人に対しては同情しますが、優れている部分を持つ人に対しては、ひがむ人たちが多いように思います。知的に低い人、体が弱い人を国家がサポートするのは良いけど、知的に高い人をサポートする必要はないという反対意見がたくさんあるのです。

__日本でギフテッド教育を行うために必要なものとは?

日本でギフテッド教育を行うためには、「認知も才能もいろいろあり、どの人も良いところがあるから人は素晴らしいのだ」と思えるような先生が必要です。子どもを認めてその子の気持ちを引きつけることができる先生。子どもがあなたにかなわないという気持ちを持たせることができる先生、その子に合わせた教育ができる力を持っている先生でないとギフテッドの子どもを教えることはできません。そのような話を外来ですると、「そのような先生はどこにいるのですか」と聞かれますが、どこの学校にも一人ぐらいそのような先生はいらっしゃいますし、いわゆる有名校にはより多くいらっしゃるようです。できれば、ギフテッドな子は小学校低学年までにそのような先生に出会うことが必要なように思います。そのために、学校、塾、スポーツなど様々な社会活動に挑戦すべきだと思います。社会から逃避することを選ぶのではなく、挑戦する気持ちをサポートしてあげましょう。

__日本でギフテッド教育の取り組みを始めた学校もあるそうですね

本当はわが国でも、国家規模かマイクロソフトやグーグルレベルの資本のサポートで、そのような先生を集めた学校があると良いのかもしれません。通信制もあるN高(学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校)、翔和学園など新しい試みの教育を始めているところもありますが、ギフテッド教育と掲げているところはまだありません。

私たちのクリニックでは、現在このような子どもたちが130名ぐらい集まってくれて、彼らのサポートを行っていますが、2Eから社会適応できるギフテッドになった子も多くいます。でももう私たちの限界を超える規模になってしまいました。教育界の理解が進み、私たちが、発達障害と精神症状だけに専念できる時代が早く来るように願っています。

うつ病を併発するギフテッドもある

__ギフテッドの子どもたちは日本の中では生きづらいと思いますか?

小学校低学年ぐらいのギフテッドの子どもは、完璧主義でかんしゃく持ち、口が達者で、生意気なため、先生に反発したり、クラスの中で浮いたりします。小学生で高校の数学ができてしまうような子なので、算数なんて簡単すぎて面白くないのです。先生よりも知識があって、先生の間違いを指摘したりするので、先生もついかっとなり子どもをつぶしてしまう行動に出ることも。子どもが自分より知っていても、「本当は私の方が上なのだ」と胸を張れる先生ならよいのですが……。その子のいい加減さとだらしなさが見すごせず指摘してしまうので、クラスの中で浮いてしまいます。こうして、学校で友達や先生にいじめられ、学校が怖くなり、毎日変な夢を見る、思い出して叫んでしまう、足が震える、などのトラウマ症状が出現し、何もできないうつ病状態になって我々のクリニックに来ます。このような子どもたちが数多く来るようになって、私たちのギフテッドの取り組みが始まりました。

ギフテッドな子は治療が必要か

__具体的にどんな治療があるのでしょうか

ギフテッドな子たちは、自分の気持ちと折り合いをつけて人の話を聞くようにならなければいけません。そのためには「親以外の尊敬できる人に出会うこと」。私はその役になれたらと考えています。主な治療には、薬物療法と作業療法(運動療法)があります。

・薬物療法
まず、興味のあることしかしない、自分勝手、感情と情動が不安定などのADHD症状を改善することが必要です。ADHDの子は記憶の容量(ワーキングメモリ)が小さいので、それを整理して大きくしていく薬を使うと、物事の見通しが立って、感情をだんだんコントロールできるようになってきます。

・作業療法(運動療法)
また、ギフテッドの子たちは、体の姿勢やバランスが悪いために運動に挑戦しようとせず、字を書くことからも逃げがちです。人の言うことも聞かず、やり出したことを最後までやり遂げず、皆投げ出してしまいます。こうした症状を改善するために、クリニックでは作業療法を行ってきました。素晴らしい指導者に出会うと、不得意な運動にも挑戦する気持ちになって、説明を受けながら続けていけるので、どんどんできるようになると思います。ぜひ習い事への挑戦もさせるようにして欲しいですね。

__クリニックに通うと、ギフテッドの子はどのように変化していきますか。

我々のクリニックには130人ぐらいのそういう子が通っていますが、みんな最初はボロボロでトラウマを抱えて来ます。まずは彼らが思っていることを聞いてあげることが大事です。その上で、「でもね、こういう風に考えて、こういう風に生きるほうが得だよ」と、話をします。そうすると彼らは納得して、自分で考えるようになります(説明の仕方に少しコツがありますが)。人との関わりをちゃんと持てるようにしながら、自信をつけ、意識を変えさせます。みんなそれなりの実力は持っている子ばかりなので、立ち直ったらすごいですよ。麻布、筑駒、開成に合格するなど、中学受験では立派な成績を残すようになります。

__ギフテッドは早期治療で楽になる!

ギフテッドな子たちは就学前から特徴的な行動が認められ、入学後に不登校やひきこもり状態になる子が多いのですが、小学校低学年の時期に治療を行わないと、将来、精神疾患などの発症が危惧される例もあります。

「うちの子はギフテッドなので発達障害の薬なんて飲みません」とおっしゃる親御さんも多いのですが、何かしら生きづらさを感じている場合は、早期治療をおすすめします。

いくら小学校でIQが130あっても、それを活かせる環境(中学受験をするなど)に行かないと日本にいる限りは意味をなしません。不登校でひきこもっていたら、せっかくの高い能力もダメにしてしまいますし、IQはどんどん低下していきます。

日本が抱える課題~ギフテッドな子も関われる社会に~

__わが子がギフテッドかもと思った場合、親はどうすればいいのでしょうか。

たぶん、お母さんは育てにくいと感じると思います。クリニックにも、「子どもが大変で…」と相談に来る方も多いです。お母さんはわが子に勝ちたいと思うものですが、わが子の方が知的に高いから理論で戦っても無駄なんです。お母さんには、「あなたの言ってる気持ちはわかる。でも、お母さんは悲しいよ」と感情で戦うようにアドバイスしています。

それから、子どもがギフテッドかもと言われて「うちの子、天才!?」と勘違いされる親御さんもいらっしゃいます。でも、アインシュタインは100年に1人、ダ・ヴィンチは500年に1人なので、お子さんはもっと普通の人です。かつての我が国を繁栄に導いたHONDAやSONY、CASIOなどの優秀な技術者は、今で言うギフテッド(2E)だったと言われていますが、最近では社会性の低いギフテッドはほとんど雇われなくなっています。

今、我々のクリニックでみている子どもたちは、社会性を身につけ、物事を最後までやり遂げるようになり、それなりの有名大学を卒業して、大学や研究所の研究者、IT産業などの技術者として成功できるのではと思っています。そのような未来を描きましょう。優秀な当たり前の大人になることができる、彼らをつぶしてはいけないのです。

__今後、発達障害やギフテッドのお子さんとどんな風に関わる社会になるべきだとお考えですか?

私がずっと発達障害に関わってきて不満な点は、「発達障害はかわいそうな人たち」というイメージがあることです。障害年金などの税金で「社会の中で助けてあげないといけない」という考え方は、本来はおかしいと思うのです。発達障害の人もギフテッドの人も社会に出て働くべきです。彼らを上手に使って、みんなで生きていける社会を作るべきだと思います。

最近はギフテッドの話も色々なところで取り上げられるようになり、少しずつ知られてきました。文科省、経済産業省、様々な企業でギフテッドの人たちをサポートする特別なプログラムを作ろうというプロジェクトも始まろうとしています。ギフテッドの人たちが、早く社会性を獲得できる道筋を作れるような社会になることを望みます。そして、私たちクリニックが、ギフテッドの子どもたちを頑張って育て上げていく時代が終わる日が来て欲しいと思います。

著者プロフィール

大学生の頃よりファッション誌のライターとして活動し、主にインタビューページなどを担当。現在はママ向けライフスタイル誌やWEBに執筆中。小学生と保育園児の男子2人の母。

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